知財コラム

「私、特許権侵害しないので」

外科医・大門未知子は言った。「私、失敗しないので。オペが特許権侵害になるかどうか至急調べて」。だが、特許調査中に患者の容態が急変し、・・・。
ドクターXがこんなことになってしまってはドラマも興醒めです。
特許法では、人間を診断・治療する医療行為についての発明は特許しないとされています。そのような発明は人類のために広く開放すべきである、との考え方に沿ったものです。したがって、実際に大門先生が困ることはなく、迅速に手術を開始 することができるのです。
日本を含むほとんどの国では、医療行為についての発明は特許されません。
しかしながら米国では医療行為であっても特許されます。では、大門先生が米国で手術をする時に問題になるかと言えば、そうではありません。米国では、医療現場での行為に対して特許権の効力が及びません。つまり、日本では特許審査で「入口規制」しているのに対し、米国では医療現場で「出口規制」していて、いずれも医療現場での問題が発生しないようにしているのです。
一見同じのようですが、そうではありません。例えば、日本の審査では、患者からの血液を透析装置に通して本人に戻す透析治療は医療行為であるとして特許されません。それと同様に、人から細胞を採取してiPS細胞を作成し、同じ人に移植する方法も特許されません。しかし、iPS細胞を作成するのは医療現場ではなくバイオ工場ですから、米国であれば特許権を行使してバイオ産業を保護することができます。
日本でも、iPS細胞が話題になった後に特許審査基準が変更され、人から採取した細胞を原料としてその人の治療のためにiPS細胞を作成する方法であれば特許されることが明確にされました。バイオ技術の進歩に対応して、国内バイオ産業を保護するための行政的対応がなされたのです。このように、特許の対象は不変のものではなく、技術の進歩に従って変わり得るものなのです。

(日本弁理士会中国支部 特許業務法人せとうち国際特許事務所 弁理士 中務 茂樹)

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