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「国際商標登録出願-非ラテン言語の壁」

2025.05.19

このところの話題といえば、何といってもトランプ関税である。目的は、アメリカの製造業回帰にあるという。製造業労働者重視の政策なのだろう。昨今の中国の台頭を思えば、製造業回帰の発想は至極全うであるとも思える。


これほどのものをリーズナブルな輸出外貨価格で提供される商品の例を垣間見ると、独裁経済下の中国元の為替コントロールは他国には不可能なのだから、関税以外の他に政策手段があるようにも思えない。米国はこれまでどおりにじゃんじゃんドル紙幣を刷って、世界から中国から物を輸入すればいいという向きもあろうが、それでは、米国の、共和党の支持者は救われないということであろう。金融資本主義から産業資本主義への回帰の動きともいえる。


実際、中国の世界のプレゼンスは、知財分野でも顕著である。出願件数の伸びは他国を圧倒するものがあり、その勢いを駆ってマドプロ商標出願においても、中国語を英仏西の公式言語へ加えるという提案が出され、要する予算に比べ、公式言語の追加による中国語マドプロ出願の増加見込みのプロコンから、趨勢として中国語・露語・アラビア語の公式言語化は目前といっていい。


非ラテン文字言語への指定国官庁の新言語対応が必要であるが、国際事務局は、新言語を採用する出願のコミュニケーションには機械翻訳の提供で足りるし、それ以上の負担は不可能とする方針を提示する。このところ AI による翻訳精度の向上は目まぐるしいが、機械翻訳では不十分と異をとなえるのが日本特許庁である。


これら非ラテン文字言語は、日本特許庁はなじみがなく、審理に支障があり、機械翻訳は信頼できないと言う。日本語の公式言語化も機械翻訳(日本語)では指定国官庁には無理であろうと自認されているのだろう。日本特許庁は非ラテン文字言語の通信は受けつけたくないことになる。反射的にせっかく日本語を出願言語としても、日本語(漢字・かな・カナ)表記の商標はおいて行かれることになる。


一方、農林水産省が主管とする地理的表示(GI)は、二国間協定によって、日本語表示・翻訳語表示・表音(読み)表示も保護対象とするように協議されるのが一般的という。したがって、商標と GI との比較では「勝負あった」ということになるが、GI の表示スコープは狭く、商流の下流産品の保護には及ばないものである。


そこに商標の活路があるのだが、「夕張メロン」「神戸牛」のように日本語表記も保護の対象にすべき場合に、ラテン文字商標では権利範囲が公衆に公示されていないという弱みがある。指定国官庁において、非ラテン文字言語の表示が不可能な商標システムが採用されている場合には、例えば、図形商標として「日本語標準文字商標」を公示する代替策もマドプロ制度へ埋め込めば、今のように、わざわざ図形商標として非ラテン文字言語の表示を別途独立の出願で保護すべき必要もなくなると思うのだけれど。


かくして、仮に果肉が青色の「夕張メロン」が東南アジアの店頭に並ぶとして、商標で保護するにはどうすれば最善なのだろうか?「仮定の質問には答えられない」とは言わずにおこう。


日本弁理士会中国会 弁理士 久保 雅裕