「『スマホ競争促進法』指針案と法運用に係る知財権規制の課題 – 新規 OS 関連技術規制の諸懸案 -」
2025.06.16
その他
近時、我が国においてはグーグル社・アップル社等のプラットフォーム事業者によるスマートフォン事業への規制を念頭に、同事業に係る反競争的行為規制を内容とする法律案(『スマートフォンにおいて利用される特定ソフトウェアに係る競争の促進に関する法律』いわゆる「スマホ競争促進法」法案)が策定され、昨年度国会にて可決成立し、本年 2025 年 5 月 15 日付けにて本法の政令案・指針案等に対する意見募集(「スマホ法下位法令等」意見募集)がアナウンスされています。
特に意見募集の対象である本法の指針案(意見募集[別紙 4]指針案)においては、スマートフォン端末に実装の関連知財権を包含する新規 OS 関連技術(新機能に係るモバイル OS 技術)を対象として、プラットフォーム事業者から第三者に対する情報提供を義務付ける事前規制の法運用実施が予定されています。
具体的には、同指針案の『OS 機能の利用を妨げることの禁止』(法第 7 条第 2号)関連記述における『想定例 42[NFC(近距離無線通信)機能に係る提供拒絶禁止](指針案 37 頁・1257 行乃至 1259 行)』、及び『オ 法の規定に違反する行為を防止するために指定事業者が行うことが望ましい取組[法の施行以降に新たに開発又は既存機能を変更開発した本 OS 機能の積極提供措置](指針案 45 頁・1514 行乃至 1518 行)』などの記述が、新規 OS 関連技術に係る情報提供義務付けを明示していると解されます。
しかしながら、同指針案による新規 OS 関連技術に対する(利用目的を問わない)広汎な情報提供義務付けについては、イ)関連する知財制度が推進する革新的イノベーションと技術進歩への阻害懸案、ロ)法理論上「比例原則」を超えた憲法 22 条規定の営業自由への過度制限となる懸念、ハ)英国法制等との諸外国協調における不整合懸案、及び二)WTO TRIPS 協定関連各条への条約法上の適合性懸案と非関税障壁認定おそれの懸念、などが複数存すると考えられます。
また同時に本法の指針案とその法運用実施のあり方は、上記法政策学上の重要懸案であると同時に、当方奉職の山口大学技術経営研究科(MOT)における技術経営学上の『非市場戦略理論』下での経営戦略課題でもあり、産業界での実務戦略分析の対象であることにも留意すべきでしょう。
以上より本法の指針案とその法運用実施のあり方については、今後の非常に慎重な分析作業と修正検討の実施が望まれ、継続的な観察と検証が求められるものと考えます。
追補:日本弁理士会『パテント』誌 2024 年 8 月号に弊著関連論稿(竹内誠也「モバイル・エコシステム競争評価立法に関する法政策学的検討 -英国法政策示唆と TRIPS 協定適合性-」)が掲載されております、宜しければあわせてご一読くださいませ。
日本弁理士会中国会 弁理士 竹内 誠也